50年後の未来へつなぐ、地域の食
食とは、土地と人の関係を未来へ届ける手段
気候変動や人口減少、後継者不足など、日本各地で地域の暮らしが大きく変わろうとしています。なかでも、食文化はその土地らしさを映す大切な存在でありながら、日々の忙しさや仕組みの変化のなかで、静かに姿を消しつつあります。
地域の食材や料理、風習のひとつひとつには、その土地の気候や歴史、人々の暮らしがしっかりと刻まれています。けれど、今のままではそれらの多くが「知っている人しか知らない」まま、やがて消えていってしまうかもしれません。
だからこそ、「何をどう未来へ届けるか」という問いが、いま多くの地域にとって大きなテーマになっています。
大切なのは、特別なものを新しく生み出すことではありません。
むしろ、すでにその土地にある素材や料理、言葉や技術を、今の暮らしに合う形で“見直す”こと。それをどう届ければ、次の世代にも伝わるのかを考えることです。
たとえば、家庭では使われなくなった食材や、昔は当たり前だった行事食。これらを「いま」の言葉で語りなおし、「おいしそう」「作ってみたい」と思えるかたちに整えていくことが、食の未来をつくる第一歩になると考えています。
そのためには、地域の中でのつながりがとても大事です。生産者の思いを知ること、料理人の工夫にふれること、子どもたちが地元の味に親しむ機会をつくること。一人ひとりの「食べる」という行為が、誰かの「つくる」とつながり、地域の「伝える」に変わっていきます。
食とは、ただお腹を満たすものではありません。
誰が、どこで、なぜ作ったのか。
どうやって、誰と、なぜ食べるのか。
そんな問いを立て直すことが、地域の文化を未来へ届ける手段になります。
50年後の食卓に、今の風景が残っているかどうかは、今を生きる私たちの手に委ねられています。
一皿の中に、その土地の自然があり、人の手があり、暮らしがある。
食とは、土地と人の関係を未来へ届ける手段です。
今ここで生まれる一皿が、遠く50年先の誰かの記憶になるのかもしれません。