家族の食卓から始まった、私たちの“たべるデザイン”
カウンター10席だけの「TRATTORIA Lamp」から
2010年6月、私たちは沖縄県那覇市にカウンター10席だけのお店「TRATTORIA Lamp(トラットリア ランプ)」を開店しました。
TRATTORIAはイタリア語で“食堂”を意味します。
店名の「Lamp」には、華やかでも最先端でもなくていい、気持ちが暖かくなる料理を食べていただきたいという想いを込めました。
席数は10席のみ。当時、カウンターのみでおまかせコースを出している完全予約制のイタリアンは沖縄ではまだ珍しく、程なくして「予約が取れないお店」と言われるようになりました。
地元の方や接待のお客様でにぎわい、独立して不安だった気持ちが落ち着き、「店を続けていけそうだ」と安心したのを覚えています。
家族を守りながら店を続けるということ
開店前年に長男が生まれていたこともあり、なんとかしてお店を軌道に乗せようと、お客様からの要望があれば定休日でもお店を開けて対応しました。
早朝の仕入れから、営業後の片付けまで。
「きっと、すべての開業経験者がこのフェーズを乗り越えてきたんだ」と、妻と互いに言い聞かせ合いながら日々を重ねていました。
お客様は来店してくださる。店の中は笑顔で溢れている。
でも、それとは反対に私たちは疲弊し、家庭から笑顔が消えていきました。
今思うと、その一因となったのが家での食事だったのだと思います。
コンビニ弁当ばかりだった“家族の食卓”
まだ長男が幼かったこともあり、育児と店舗運営を両立させるには物理的に時間が足りませんでした。
お客様にお出しするお料理には手を抜かず、仕入れと仕込みをしっかりする反面、自分たちの食事は深夜のコンビニ弁当、冷凍食品、買ってきた弁当が中心でした。
子どもたちにも、買ってきたおにぎりをつぶして混ぜご飯にしたものをそのままあげたりしていました。
あの頃の家族写真の私たちは、笑っているけれど、どこかに陰りがあるように見えます。
「このままでいいのだろうか。」
「もっとちゃんとしたい。」
「こどもがかわいそう。」
その気持ちが、常にあったんだと思います。
手作りの食事から、少しずつ変えていった
変えたい!と思った私たちは、まず家族の食事を見直しました。
質素でもいい、簡単でもいい。
家族のために、手作りの食事をあらためて作ることから始めました。
すべてを一気に変えるのは難しいけれど、今日ひとつだけ手間をかけることはできるかもしれない。
「今日は特別に大好物のコーンを。」
「辛いのは苦手だから、少し甘めに。」
「いつもお疲れ様。」
手作りの食事には、「家族を想う気持ち」を込めました。
そして、次のステージへ
2020年6月。
私たちは10年間営業してきたTRATTORIA Lampに一つの区切りをつけました。
それまで続けてきた“飲食店”という形から、
「食で未来をもっと豊かに」という理念のもと、活動のフィールドを広げていこうと考えました。
同時に、**自分たちの“働き方”と“生き方”**も、もう一度見つめ直すことにしました。
今、わたしたちが取り組んでいること
現在は、以下のような活動を行っています。
- 現代的沖縄料理を提供する「傳饗(でんきょう)」を、完全予約制で月に数日営業
- “たべる”と“未来”を考えるフードデザインユニット「たべるデザイン」
- “つなぐ”をつくる定期マルシェを2つ運営
食で未来は変えられる、と信じている
「食で未来は変えられない」という人もいます。
でも、僕は変えられると信じている。
美味しいものを食べながら怒る人はいない。
小さなことから、少しずつ。