たべるデザインのコラム

島魚と赤米のスープ仕立て

土地の歴史を食卓へ “編集的思考”でつくる新しい地域食文化

「郷土料理」と「地域食文化」は似ているようで、少し異なる概念です。
郷土料理が“守る”ものであるなら、地域食文化は“育てる”もの。
時代に合わせて姿を変えながら、土地に根ざし、人々の生活に息づいていく存在です。

近年、地域の歴史や風土を反映した“新しい食文化づくり”に注目が集まっています。特に沖縄では、伝統と革新が交差する食の土壌があり、編集的思考による商品開発やメニュー設計が、飲食業や観光、地域活性において大きな可能性を秘めています。

この記事では、「土地の歴史を食にどう活かすか」そして「編集的に地域食文化を再構築する方法」について、フードコンサルティングの視点から解説します。


なぜ“編集的思考”が必要なのか?

地域の食文化を未来につなぐためには、単に昔のレシピを再現するだけでは不十分です。

・時代による味覚の変化
・食材の流通・保存技術の進化
・ライフスタイルの多様化
・観光・ギフト・ECといった販売チャネルの拡大

これらの変化を受けて、「何を残し、何を更新するか」を柔軟に編集し直す思考=“編集的思考”が、今求められています。


編集的思考で地域食文化をつくる5つのステップ

1. 歴史や文化の“文脈”を調べる

まずはその土地にどんな食材・食習慣・言い伝えがあるかを調査。
例:

  • 沖縄の正月に欠かせない「クーブイリチー(昆布の炒め煮)」
  • 台風の備えとして定着した「缶詰文化」
  • もともと薬として使われてきた「月桃(サンニン)」

これらを素材の味だけでなく、意味や役割ごと読み解くのがスタートです。


2. “今”の暮らしに合う形に再構築する

受け継がれてきた食文化も、現代の暮らしに合わなければ続きません。
たとえば:

  • 調理に時間がかかる伝統料理 → レトルトや冷凍商品に
  • 子どもが苦手な食材 → スイーツやスナックに展開
  • 一汁三菜スタイル → ワンボウルで栄養バランスを再設計

“現代の生活者”にとっての価値を取り入れることが、ブランディングの鍵になります。


3. 異ジャンルとの掛け算で魅力を引き出す

編集的思考とは、異なる要素を組み合わせる力でもあります。

  • 地域の陶芸 × 伝統野菜の前菜皿
  • 琉球ハーブ × イタリアンのソース展開
  • 古酒文化 × 現代のペアリングディナー

こうした掛け算によって、歴史ある素材が“今の空気”にフィットする新しい食のかたちが生まれます。


4. 物語を“食べられる形”で届ける

地域の物語や背景を伝えるとき、過剰な説明や資料ではなく、料理やパッケージ、言葉の余白で伝える設計が効果的です。

  • メニュー名に地名や季節感を入れる
  • ラベルや店頭で、生産者や由来をさりげなく紹介
  • SNSやWebサイトで、開発の背景を短い動画にまとめる

食べた人が「話したくなる」「誰かに贈りたくなる」ような仕掛けが、“文化の伝播”を生みます。


5. 継続して“育てる”視点を持つ

地域食文化は、一度商品にしたら終わりではありません。
季節やライフスタイルの変化に合わせてブラッシュアップし、地元の声・観光客の声を聞きながら、“育てていく文化”として継続的に設計することが大切です。


沖縄で広がる「編集された食文化」の事例

沖縄ではすでに、編集的思考によって生まれた事例がいくつも存在します。

  • 島豆腐と野菜出汁を使った、ヴィーガン対応の郷土風スープ
  • 廃棄されがちな島魚を活かした干物+汁物セット
  • 伝統の「おばぁレシピ」をベースにした冷凍家庭料理シリーズ

これらは、土地の記憶を残しながら、今の暮らしに寄り添う“新しい郷土料理”**として、多くの人に受け入れられています。


まとめ|「食」は、文化と未来をつなぐメディア

食には、時間と土地と人をつなぐ力があります。

編集的思考で歴史を読み取り、今の暮らしに再構築することで、地域の食文化は“継がれるもの”から“創られるもの”へと変化します。

そしてそれは、ただのレシピ開発ではなく、地域の未来をつくるブランディングでもあります。


たべるデザインでは、沖縄を拠点に、地域食文化の編集・商品開発・ブランディング支援を行っています。

ご相談・お問い合わせはこちらから

関連記事一覧