沖縄から見える地域ブランディングのヒント
観光地として広く知られる沖縄。
その魅力は様々ですが、近年では“観光だけに頼らない地域づくり”が注目されるようになっています。背景には、人口減少や気候変動、観光需要の波など、地域が持つ課題が複雑に絡み合っていることが見えます。
こうした時代のなかで、改めて見直されているのが、「食」の力です。
土地に根ざした食材や風習、昔ながらの知恵。
それらは地域に暮らす人々の営みそのものであり、まさに“文化のかたち”とも言える存在です。
沖縄にも、個性豊かな島野菜や近海魚、発酵文化など、土地の個性を映し出す素材が豊富にあります。そうした資源をどう活かし、どのように未来へ手渡していけるか。
その道筋を描くことこそが、食による地域ブランディングの核になっていきます。
地域を見つめ直すところからはじまる
「ブランディング」と聞くと、外向きの発信やパッケージ開発などが浮かびがちですが、実際の出発点はもっと内側にあります。
たとえば、今そこにある食材。小さな加工場や、家庭の食卓に残るレシピ。昔はよく食べていたけれど、今はもうあまり見かけなくなった素材。
そうした“日常のなかに眠っているもの”に目を向けるところから、地域の魅力は立ち上がってきます。
それは、整理というより「見つめ直す」作業に近いかもしれません。
「届けたい誰か」が見えたとき、食は”伝える手段”になる
地域資源を使った商品や体験をつくるとき、まず大切なのは「誰に届けたいのか」を描くことです。
地元の食材と薬膳の知恵を組み合わせて、都市の女性に健康を届けたい。
忙しい親子のために、安心して食べられるスープをつくりたい。
海で働く人たちの姿が見えるような、魚のお弁当を観光客に届けたい。
そんな風に“誰かの顔”が浮かんだとき、素材はただの食材ではなく、物語を伝える手段になります。
そしてその物語が、暮らしの中で体験され、誰かの記憶に残っていく——その連なりが、地域ブランドの土台をつくっていきます。
“場”の力を、考えてみる
食の価値は、食べるその瞬間だけで終わるものではありません。
誰と、どこで、どんなふうに味わったか。
その空気や会話、景色までを含めて、人は「美味しかった」と感じるのではないでしょうか。
マルシェや小さな食堂、季節ごとの食イベントなど、「場」の体験が人の記憶に残る。
だからこそ、商品やレシピだけでなく、それらが交差する“体験を考えること”もまた大切にしたい視点です。
食は、地域が持つ“未来への種”
沖縄に限らず、どの地域にも、その土地にしかない素材や風景があります。
けれど、それらに見慣れてしまうと、その価値にはなかなか気づきにくいものです。
それを、もう一度拾い上げて、整えて、誰かに届ける。
それが、食を通じた地域ブランディングの本質なのかもしれません。
特別なことをする必要はありません。
地元の素材に、暮らしの視点と少しの創造力を加えるだけで、その土地の魅力はゆっくりと、確かに広がっていきます。
「食べること」が、地域を知るきっかけになる。
そんな未来を、これからも丁寧に描いていきたいと考えています。